a record of love after a long time and the last love for me, and perhaps.
薄濁
上弦の月が浮かぶ寒い夜
胸の果実は張り裂けそうになり
成さぬ命のための寝床を
朱に染めながら捨てている

からだ中を駆けめぐる原罪の苦しみを
君が与える痛みに置き換えては
唇の端に曖昧な微笑を浮かべる
次の逢瀬を望みながら
Oyster-Egg bowl
シーツを乱し床を濡らし
溺れそうになりながら
君を包み君が切り裂く

初めて叫ぶあの呼び名


互いの部材を預け合い
ひとかたまりに溶けていく
白い肌に映える
秘密の紅い肉
濁酒
明日を思って爪を摘んだ
君を傷つけないように

その指先で掴む背中にも
一条の爪痕さえ残さない
Malts Beer
鏡に映るトルソが
君への思いを断罪する
無濾過生熟成酒
冬の陽射しに光る綿雪
互いのために空けた時間
今頃は車窓から
見るともなく川を眺めていただろう


約束した場所に今日は行けない
見えない力が逢瀬を阻む


もうすぐ触れたはずの唇を
胸を腕をその睫毛を
いまは心で思うだけ
口づけのための唇を噛みながら
荒走
粉雪が降り積む駅
土曜の夜

酔ったわたしは
君ではない腕にもたれている


明日は逢えると思っていたのに
叶わなくなってしまった

切なさが焦がす
心とからだ


滑り込む電車に指を緩め家路につく
この腕の持ち主は君ではない
AWAMORI
ひとりで過ごす夜
仕事に没頭しながらも
頭の片隅で君を思う
パソコンにはメッセージ


普通の会話にスイッチが入る
君の声が聞きたくてたまらない
携帯のシークレット機能を解除し
隠されたデータを呼び出した


寂しさを語り
逢瀬を約すだけだったのに
君は静かに指示をする
あの青いモノを持ってくるように



気が付けばわたしは床に落ち
静かの海が下に広がる
掌中のそれが震える音と声にならない呻きが
レスピーギのパッサカリアに同調する


逢えないときもこうして
君はわたしを変え続けるのか
そうして新たな刺激を求めるのか

わたしはそれを望むのか
滓絡
逃げることは赦されない
のし掛かるその重さに息は切れ
いつ終わるとも知れない行為に
絶望と歓喜が交互に訪れる


始まらなかった恋を収めたゆうべ
君を思って自らに触れた午後
そんなわたしの揺らぎを感じ取ったか
終わらぬ責めの裏側に見る嫉妬


君だけに見せる姿と
君だけに聞かせる声を
君がいないところで
こうして明らかにするわたし
牡蠣
強い風が吹き荒れまっすぐ歩くことが難しい
冷たい空気は頬を撫で明日の雪を予測させる

久しぶりに会うあなたはあいかわらずの笑顔
大人らしい会話とお酒季節の美味しい料理

盃を重ねながらお互いの今を報告しあう
遠く離れて生きることをあらためて認識する

友達が去ったあとそっと唇を交わした
今だけこうしているけれどこれがもう最後になる

ただ一度も胸の鼓動を重ねないままでこの恋を終わらせる
細く繋がった糸を切り君がどう思うのか考える
Highball
寂しさを埋めるためのそれを
呑む込む前に君に知らせる
自分で決めた約束通り
携帯をコールする


寝室の天窓からは青空が
白昼の行為を覗いている
掌に隠れる程の小さなものを握りしめて
始める前から既に変わる息遣い


湿った場所に触れながら
少しずつ昂まる心拍に怯え
マイクの向こうの君に許可を請う
筋肉の震えを解放してもいいかどうか


寄せ来る快感の波に仰け反るからだ
押さえつける君はいない
浮かぶ汗が額に長い髪を貼り付け
溢れるものが着衣を潤す


いくつもの揺らぎを乗り越えるあいだ
君は遠いところで声だけを聞いている
あるいはその振動音を感じながら
わたしの名を呼んだだろうか


離れていても君を感じる
またひとつわたしが変わってしまった
かすかな余韻に浸りながらも
瞑目して君のからだを夢想する
吟風
馴れた掌がからだを探る
愛は冷め情で繋がる関係でも
秘密の部分は怖れることもなく
来るべきそれを包み込む


ほんの数ヶ月前までは
ただ普通に行われた営みに
幾ばくかの嫌悪の情を持ちながら
無機的とは言えない声で応えていく


脳裏に君がよぎるけれど
間違ってはいけない
叫びと共に危うく口走りそうなあの名前
頬の内側を噛んで呑み下す


肌合いが変わっているかも知れない
柔らかなところのかたちだって
これまでどうやって交わしてきたのか
手順は間違っていなかったか


気付かれてしまわなかっただろうか
君のために変わりはじめたからだ
この短い季節に変化した自分を
わたしの本能は知っている


長い時間重なりながら
目蓋の奥に君を思い浮かべる
背に組み敷かれたこのからだを
君は黙って抱きしめてくれるだろうか
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